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e-Bizen Museum <柴田錬三郎略伝10>

記事ID:0000545 更新日:2022年3月1日更新 印刷ページ表示 大きな文字で印刷ページ表示

柴田錬三郎略伝

東鶴山公民館

鶴山小学校の幼き諸君へ

柴田錬三郎

 私は、今諸君が学んでいる鶴山小学校を、二十年前に卒業したものです。それから、岡山の中学校へ入り、東京の慶応大学へ進み、文学を勉強しました。そして、自分の目的通りに小説家になりました。

 私が、小説家になろうと考えたのは、鶴山小学校の五年生の時でした。私は、特に本を読むことが好きだったものですから、小学生の時から自分がなりたいものをきめてしまいましたけれど、諸君のうちの大部分は、まだ何になりたいかきめていないと思います。

 今からきめる必要はありません。ただ、私が諸君に希望したいのは、自分はいったい何が好きかということを早く見つけることですね。好きなことというのは、学校の勉強のことだけではありません。勉強は嫌いだけど、大工の仕事は好きだという人もいるでしょう。

 その人は、将来大工になればいいわけです。勉強がきらいなのに、大学へ行かなければ偉くなれないからがまんして大学へ行くという考えはまちがいです。機械をいじることの好きな人は、工場へ入って働けばいいし、人間のからだについて興味をもつ人は、やがて看護婦さんになって病院で働けばいいし、世の中にはあらゆる職業がありますから、自分の好きなことをさせてくれる場所がきっとあります。

 自分の好きなことを将来職業に出来る人が、いちばん幸福なのです。中には、僕なんか好きなことはひとつもない、という人がいると思います。その人は、お父さんがもしお百姓さんならば、そのあとをついで野に出て働けばいいわけです。

 好きなことゝいったら喧嘩だと意地のわるいことをいう人もいるかもわかりません。喧嘩が好きなら、将来拳闘の選手におなりなさい。そして、日本一になってごらんなさい。立派なものじゃありませんか。自分の好きなことを悪い方につかわず、世の中に役立つ仕事にすれば、どんな職業でもかまいません。

 私は、決して出世したわけでもなければ、立派な人間でもありませんが、少年少女雑誌のために書く私の小説が、すこしでも皆さんをたのしませることが出来るならば、私が小説家になったかいがあるというものです。

 なつかしい母校の幼い諸君に、私の本が読んでいただけるということは、こんなにうれしいことはありません。勉強のひまにお読みくださるよう、校長先生のお手元へ、六冊お送りしておきました。

 では、よく勉強し。よく遊び、立派な日本人として育たれんことを、はるか東京よりお祈りします。

(昭和二十六年二月一九日)

平成14年7月21日編
備前市東鶴山公民館