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e-Bizen Museum <柴田錬三郎略伝8>

記事ID:0000541 更新日:2023年4月1日更新 印刷ページ表示 大きな文字で印刷ページ表示

柴田錬三郎略伝 

東鶴山公民館

錬三郎の代表作

 [眠狂四郎無頼控]長編小説。「週刊新潮」昭和31.5.8~33.3.31。昭和31.11~33.9、新潮社刊(全7冊)。

 『眠狂四郎無頼控続30話』『眠狂四郎独歩行』『眠狂四郎殺法帖』『眠狂四郎孤剣五十三次』とつづくシリーズものになるが、主人公の孤独な混血児剣鬼狂四郎には近代的なニヒルな性格という絶対的魅力があったからであり、1回ごとの読切連載であったことも、読者の新しい習慣にも適応した。

 狂四郎には、純文学でいう「出生の秘密」がある。彼はオランダのころび伴天連のジュアン=ヘルナンドと幕府の大目付松平主水正(まつだいら もんどのしょう)の娘との混血児であり、母をのぞけばその出生をのぞむものはなかった余計者である。

 それは日本の戦後に進駐してきたアメリカ兵と日本女性との間に生まれた混血児問題にも即応している、きわめて現代的問題でもあった。狂四郎の異相は異邦人に似て彫りが深く、十字架上のキリストの像にも似ている。母は狂四郎14歳のとき死んでしまう。二十歳になった狂四郎は、長崎ではじめて出生の秘密を知り、その帰途、船上で知りあったお園という不幸な娘とともに、死によって暗いみずからの過去を清算しようと、船を沈めて海にとびこむ。

 しかし狂四郎のみ孤島に打ちあげられ、そこで一刀流の流れをくむ老剣客に剣をならい、敵をして空白の眠りにおちいらしむ円月殺法という邪剣をあむ。狂四郎の愛刀は豊臣秀頼が愛用したといわれている岡崎五郎正宗だが、彼の手にかかると「残虐無道の毒刃となる。

 彼は自分1人だけの掟を守り、平気で人を斬るという悪の魅力がある。それは同じころアメリカで流行した冷酷非情なハード・ボイルド型探偵小説の主人公と共通する魅力である。さらに狂四郎は出生の秘密にかかわる日本的な宿命感や虚無感をになってゆくから、読者にある種の悲哀感をあたえる。

 愛する美保子は美しいがゆえに罪の匂いを狂四郎に感じさす。4年後、彼の妻となるが、労咳をわずらって死んでゆく。暗殺者眠狂四郎の誕生は、大正期の中里介山(なかざと かいざん)『大菩薩峠』の机龍之介の系譜につながるもので、昭和戦後が生んだ新ヒーローである。そして眠狂四郎シリーズは時代小説に新しいジャンルをひらいた画期的な事件である。

(日本近代文学大辞典 第二巻人名 日本近代文学館・編 講談社)