備前市世代ふれあい交流事業
柴田練三郎略伝
東鶴山公民館
練三郎の代表作
 [眠狂(ねむりきょう)四郎(しろう)無頼(ぶらい)(ひかえ)]長編小説。「週刊(しゅうかん)新潮(しんちょう)」昭和31.5.8〜33.3.31。昭和31.11〜33.9、新潮社刊(全7冊)。『(ねむり)狂四郎(きょうしろう)無頼(ぶらい)(ひかえ)(ぞく)30話』『(ねむり)狂四郎(きょうしろう)独歩行(どっぽこう)』『(ねむり)狂四郎(きょうしろう)殺法帖(さっぽうちょう)』『(ねむり)狂四郎(きょうしろう)孤剣(こけん)五十三次』とつづくシリーズものになるが、主人公の孤独な混血児剣鬼(けんき)狂四郎(きょうしろう)には近代的なニヒルな性格という絶対的魅力があったからであり、1回ごとの読切(よみきり)連載(れんさい)であったことも、読者の新しい習慣にも適応した。狂四郎(きょうしろう)には、純文学でいう「出生(しゅっしょう)の秘密」がある。彼はオランダのころび伴天連(ばてれん)ジュアン=ヘルナンドと幕府の大目付松平(まつだいら)主水正(もんどのしょう)の娘との混血児であり、母をのぞけばその出生をのぞむものはなかった余計者(よけいもの)である。それは日本の戦後に進駐(しんちゅう)してきたアメリカ兵と日本女性との間に生まれた混血児問題にも即応している、きわめて現代的問題でもあった。狂四郎(きょうしろう)の異相は異邦人に似て(ほり)が深く、十字架上のキリストの像にも似ている。母は狂四郎(きょうしろう)14歳のとき死んでしまう。二十歳になった狂四郎(きょうしろう)は、長崎ではじめて出生の秘密を知り、その帰途、船上で知りあったお園という不幸な娘とともに、死によって暗いみずからの過去を清算(せいさん)しようと、船を沈めて海にとびこむ。

 しかし狂四郎(きょうしろう)のみ孤島(ことう)に打ちあげられ、そこで一刀流(いっとうりゅう)の流れをくむ老剣客(ろうけんきゃく)に剣をならい、敵をして空白の(ねむり)りにおちいらしむ円月殺法(えんげつさっぽう)という邪剣(じゃけん)をあむ。狂四郎(きょうしろう)の愛刀は豊臣(とよとみ)秀頼(ひでより)が愛用したといわれている岡崎(おかざき)五郎正宗(ごろうまさむね)だが、彼の手にかかると「残虐(ざんぎゃく)無道(むどう)毒刃(どくじん)」となる。彼は自分1人だけの(おきて)を守り、平気で人を()るという悪の魅力がある。それは同じころアメリカで流行した冷酷(れいこく)非情(ひじょう)なハード・ボイルド型探偵小説の主人公と共通する魅力である。さらに狂四郎(きょうしろう)は出生の秘密にかかわる日本的な宿命感(しゅくめいかん)虚無感(きょむかん)をになってゆくから、読者にある種の悲哀感(ひあいかん)をあたえる。愛する美保子は美しいがゆえに罪の匂いを狂四郎(きょうしろう)に感じさす。4年後、彼の妻となるが、労咳(ろうがい)をわずらって死んでゆく。暗殺者(ねむり)狂四郎(きょうしろう)の誕生は、大正期の中里介山(なかざとかいざん)大菩薩峠(だいぼさつとうげ)』の机龍(つくえりゅう)之介(のすけ)系譜(けいふ)につながるもので、昭和戦後が生んだ新ヒーローである。そして(ねむり)狂四郎(きょうしろう)シリーズは時代小説に新しいジャンルをひらいた画期的(かっきてき)な事件である。
(日本近代文学大辞典 第二巻人名 日本近代文学館・編 講談社)

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